決算期を控えると、多くの経営者は「資金繰りがうまくいくだろうか」という不安を抱えるものです。
私が三菱UFJ銀行で300社以上の融資審査を担当していた頃、決算期前後に資金ショートの危機に陥る企業を数多く見てきました。
銀行は決算期の数字を特に重視し、信用力をシビアに判断します。
一方で、経営者側は税金や決算関連の支払いが重なることで、急激にキャッシュアウトが増えがちです。
まるで川の水が一気に干上がってしまうように、お金の流れが枯渇するときがあるわけです。
そこで本記事では、決算期における資金繰りを乗り切るための「計画的なキャッシュフロー管理術」について、具体的なノウハウを体系的にお伝えします。
私が提唱する「銀行員の目線チェックリスト」や「3C資金調達分析」など、実践的な手法もふんだんに取り入れています。
ぜひ、最後までお付き合いください。

なぜ決算期の資金繰りが重要なのか?

決算期とは、企業にとって一年の総括を行う節目です。
ところが、この時期は税金や取引先への支払い、賞与など、支出が重なるケースが非常に多いのです。
キャッシュの流れがおろそかになると、たとえ黒字決算でも「資金ショート」を起こす危険があります。
黒字倒産という言葉が示すように、帳簿上の利益よりも「手元の現金」が不足して倒産に至る企業は決して少なくありません。
私は日本政策金融公庫に勤めていた際、黒字でもキャッシュの管理不足で苦労している経営者を数多く見ました。
ですから、計画的な資金繰り対策は経営の根幹と言えます。

  • 決算期に注意すべき主な支払い
    • 法人税・消費税などの税金
    • 決算期末の取引先への買掛金・支払手形
    • 賞与や残業代などの人件費
    • 借入金の元本返済・利息支払い

これらを予測し、事前に資金を確保しておくことが不可欠です。

抑えておきたいポイント
┗ 決算期の資金繰りは「黒字でも倒産リスクがある」と強く認識する
┗ 支払いが集中しやすい時期だからこそ、早め早めの管理が必要
┗ 手元キャッシュ不足は信用力の低下にも直結する

資金繰りが一時的にでも悪化すると、取引先や金融機関との信頼関係が傷つく恐れがあります。
この信頼を損なうと、今後の資金調達が一段と難しくなるため、長期的な経営戦略にも影響が及ぶのです。

キャッシュフローを見える化するための手法

「キャッシュフロー予測表」を活用することで、入出金のスケジュールや不足額を可視化できます。
これはいわば、お金の流れを地図上に描き出すようなイメージです。
私が「銀行員の目線チェックリスト」を作成した際にも、まずは経営者にキャッシュフローの可視化を徹底するよう助言してきました。

  1. キャッシュフロー予測表の作成
    1. 月単位・週単位での現金収支を一覧化
    2. 売上入金タイミングや固定費、変動費を詳細に記入
    3. 不測の支出リスクもある程度織り込む
  2. 売掛金の回収強化
    1. 与信管理を徹底し、取引先の支払い遅延リスクを見極める
    2. 請求書の早期発行、電子化により回収サイクルを短縮
    3. ファクタリングなどの活用も検討
  3. 在庫管理の最適化
    1. 過剰在庫や不良在庫を抱えないよう適正在庫を設定
    2. 在庫回転率を改善し、キャッシュを滞留させない
    3. 需要予測データを活用し、仕入れのタイミングを最適化

キャッシュフロー予測表例

項目月初繰越残高今月入金見込今月支払予定月末見込残高
前月売上入金3,000,000円2,000,000円
今月売上見込3,500,000円
材料費・外注費1,500,000円
人件費・経費1,000,000円
借入金返済(元本+利息)500,000円
合計3,000,000円5,500,000円3,000,000円5,500,000円

このように、資金の流れを数値で把握し、前もって支払い予定と入金予定のギャップを明確にすることがポイントです。
私がよく口にする「お金の流れは水の流れ」という比喩も、結局は流れを可視化し、滞りを早期に見つけ出すことの重要性を示しています。

資金調達を成功させるための計画的アプローチ

キャッシュフローを見える化したら、次は「どうやって資金を確保するか」を検討しましょう。
特に決算期前後は、銀行が「企業の決算書評価」を行うタイミングでもあるため、融資交渉をうまく進めるには事前準備が欠かせません。
私が開発した「3C資金調達分析」でも、Company(自社)、Competitor(競合)、Customer(顧客)の状況を踏まえて融資審査に臨むことが重要だと説いています。

  • 銀行借入をスムーズにするコツ
    • 最新の決算書類をわかりやすく整理(財務三表連動分析を意識)
    • 融資目的と返済原資を明確に説明(銀行員の目線チェックリストを活用)
    • 金利や担保条件など、交渉できる余地を把握しておく
  • 補助金・助成金の活用
    • 国や自治体が提供する支援策を早期にリサーチ
    • 申請書類は期限ギリギリではなく余裕を持って準備
    • 成長投資や研究開発費など、使途限定の補助金にも注目
  • 多様な資金調達手段の組み合わせ
    • VCやエンジェル投資家からの出資(ハイリスクだがリターンも大きい)
    • クラウドファンディング(製品やサービスの認知向上にも効果的)
    • 公的金融機関(政策金融公庫など)の低金利融資やセーフティーネット保証

かつて、私は日本政策金融公庫で融資審査課長をしていた時期に、多くの経営者が「銀行融資一択」に固執している現場を見てきました。
しかし、事業フェーズに応じて資金調達ポートフォリオを組むことで、キャッシュフローの安定と成長投資のバランスを取ることが可能になります。

キャッシュフロー管理を継続する仕組みづくり

キャッシュフロー管理は、一度やって終わりではありません。
特に決算期のように「お金が大量に出入りする局面」を超えた後も、継続的なモニタリングと改善が欠かせないのです。
これはちょうど茶道の稽古のようなもので、毎月コツコツと手順を確認しながら実践を重ねるうちに、自然と流れが身につきます。

  1. 定期モニタリング
    1. 月次・週次でキャッシュフロー予測表を更新
    2. 財務三表を連動させ、損益・資産負債・キャッシュの変化を総合的に評価
    3. 問題が見つかれば即座に対策を実行
  2. 社内コミュニケーションの徹底
    1. 各部門で発生する経費や売掛金の回収状況を定期的に共有
    2. 営業・経理・購買など、部署横断でデータを連携し、予測の精度を高める
    3. 経営トップは定期会議でキャッシュフローの状況を必ず確認

ここがポイント
┗ キャッシュフローの管理は「人任せ」にしない
┗ 経営者自身が「お金の流れ」を把握して指示を出す
┗ 問題が起きてから修正では遅いので、定期的な予測が大切

このように、全社的な取り組みによってキャッシュフロー管理を習慣化すれば、突発的な支払いがあっても慌てる必要がなくなります。
経営者としては「川の水量」を常にチェックし、どこで取水し、どこで堰を切るかを見極めていくイメージが大切です。

まとめ

決算期は、多くの支払いや税金が集中しやすく、キャッシュフローが逼迫しやすい時期です。
しかし、事前にキャッシュフローを見える化し、融資や資金調達のシミュレーションを行い、さらに社内コミュニケーションを徹底しておけば、この局面を余裕をもって乗り切ることができます。
お金の流れを水の流れと捉え、どこで流れが滞りやすいかを早めに発見し、計画的に対策を打つことが何よりも重要です。

私が30年以上金融の現場で培ってきた経験から言えるのは、「黒字でも倒産リスクはある」という現実です。
だからこそ、売上至上主義を脱却し、キャッシュフロー重視の経営を推進する必要があります。
決算期はその大切さを改めて認識する絶好の機会でもあるのです。

決算期を乗り越えるために、ぜひ本記事で紹介したキャッシュフロー予測表の作成や「銀行員の目線チェックリスト」、3C資金調達分析などを活用してください。
継続的にキャッシュフロー管理を行い、金融機関との信頼関係を強固に保ちながら、企業としての成長を実現していきましょう。
準備を怠らなければ、決算期はむしろ「経営を次のステージに引き上げるチャンス」に変わります。

お金が安定して回る企業は、心から余裕を持って次の手を打てるものです。
どうか、計画的なキャッシュフロー管理を実践し、持続的な発展への基盤を築いてください。
皆さまの企業経営が、より豊かなものになることを心より願っています。

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